不動産を扱っている人、あるいは保有している人なら、「既存不適格建築物」という言葉を一度くらいは聞いたことがあるかもしれん。
早い話が、「現在の建築基準法に適合していない建物」と言うことやな。しかし、いわゆる違反建築物ではない。つまり、建てた時は合法やったが、その後の法律改正で適合しなくなったということで、最初から違反して建てた違反建物とは根本的に違う。
それらを詳しく説明するには、建築基準法や都市計画法なんかを説明せんといかんのやが、そんなことしたら皆は寝てしまうやろから、やめとく。ここでは、既存不適格に的を絞って、要点だけを簡潔に紹介しようと思う。
既存不適格建築物には、現行法では違法状態だが、そのまま使用してもいいですよ、と言う緩和規定があたえられている。当然、かなり古い物件になり、そのままでは売買対象とはならず、何らかのリフォーム(修復・修繕)やリノベーション(改修・改善)が必要になってくる。
そんな時に、緩和規定が役に立つ訳やが、現実的にその緩和規定を活かすには、木造住宅(4号建物)が向いている。
<建築基準法:用語解説>
4号建物:木造2階建て以下で、延床面積500平米以下、最高高13m以下、軒高9m以下のもの
木造以外では、平屋の延床面積200平米以下のもの
上記以外の建物は、構造・規模・建物用途によって、1〜3号に分類されている。
緩和規定を具体的に挙げると、4号建物では既存不適格でも、リフォームやリノベーションの内容や規模によらず建築確認申請が不要とされている。
他方の1〜3号建物では、主要構造部(壁・柱・床・梁・屋根・階段)の1種以上について行う過半のリフォームやリノベーションを行う場合に、建築確認が必要となる。
既存不適格の緩和規定が、木造住宅に優遇されている理由には、新築・ストック共に木造住宅が60%前後を占めている現実を考慮したもの。つまり、現行法に適合させるための改修・改善費用を個人に過分に負担させない意図がある。
1〜3号建物のリフォームやリノベーションで、確認申請が必要かどうか、あるいは現行法に適用させる部分の範囲を判断するのは難しく、やはりプロに任せるしかない。その場合、時間とコストが掛かるのがネックになる。
なお、建物の種類によらず、10平米以内の増築なら、建築確認が不要とされていることも知っておいた方がええやろ。ただし、防火・準防火地域以外の場合。
いずれにしても、鉄骨造・RC造や公共・商業建築物などでは、既存不適格のままで活かすのは現実的に難しいということやな。
ついでに、なんで既存不適格になったのか、参考のために簡単な例を見てみよう。
- 容積率・建ぺい率
これで既存不適格となるケースには、建築当初の用途地域が後の法改正で変更になり、それに伴って容積率・建ぺい率が減少してしまうものがある。
例えば、住居系の用途地域がそれまでは3種類だったのが、1992年には7種類に細分化されている。おかげで当初は建ぺい率(建物の水平投影面積/敷地面積)が60%だったものが50%になった地域もある。
これは地域が整備され環境がよくなったため、あるいは良くするための措置やから分からんでもないが、勝手に法律を変えて、既存不適格なんて不名誉な呼び方されるんやから殺生な話や。
- 耐力壁(壁量)不足
古い住宅で既存不適格となるのは、このケースも多い。現在の耐震基準は、1981年の新耐震基準を元にして幾度か改正・強化されている。
1981年頃の住宅と言えば、築40年前後で査定額としてはゼロやけど、耐力壁以外の柱や梁などは十分使用に耐えるものもある。
そういう物件は、リフォームやリノベーションにはピッタリとも言えるが、既存不適格のまま再利用するのは命が危ないから勧められん。
ましてや、間取りが古いからと、なんの処置もせんと壁を撤去するのは絶対にあかん。プロに相談して、耐力壁だけは最新の耐震基準に合わせておくほうがええ。
そのほかにも、既存不適格となった原因はいっぱいあるけど、このくらいにしとく。もうみんなのあくびが聞こえてきそうや。
色々と書いてきたけど、無条件で既存不適格の緩和規定を使え、と言ってる訳やない。そやけど、容積率や建ぺい率オーバー、または高さ制限など、解決が難しいものがある。
法律の遵守は国民の義務やが、既存不適格の緩和規定(既得権)が認められている中で、個人の財産を強制的に減じたり放棄させたりすることはでけん。できる範囲で、現行法に近づけることが精一杯というのが現実やと思う。
その上で、既存不適格の緩和規定を利用して新たな付加価値をつけ、合わせてそれらを明示してトラブルにならんような売買をすることが肝心やね。
なお、令和元年に法改正が行われ、住宅を飲食店などの店舗へ用途変更する場合、それまでの床面積の上限100平米が200平米に緩和され、建築確認申請が不要となった。
そやから、既存不適格の古い物件でも、リフォームやリノベーションで再活用できる幅が広がり、売買しやすくなったといえる。儲けてや!